男「今日の面接もダメだった」
男「地元のしょぼい中小企業だったってのに、クソが」
男「もう潮時だろ。死ぬか」
笛吹川にかかる橋の欄干に、短い右足をのせる。
よれよれになったスラックスの太腿部分が、ピンと張った。
頭を出して、眼下を見つめる。
先日の雨のせいか、濁った川水が勢いよく流れていた。
高さはゆうに20mほどはあるだろうか。
不意に、両足がガクガクと震えた。
怖いのか? そんなはずはない。
これで楽になれると思うと、楽しみで武者震いしているんだ。
今日落ちた会社も、実は社員採用ではなく「バイト採用」だった。
そう、俺は就職するどころか、バイトとして働くこともできないゴミなのだ。
男「俺の何が悪いってんだよ……畜生、ボケが」
男「こんなクソみたいな世界」
大学時代就活をするも、自身の理想と現実の乖離が激しく一つも内定を得られなかったこと。
脆弱だったメンタルは壊れ、そこから2年間も実家に引きこもっていたこと。
気づけば俺は、25歳職歴なしのニートになっていた。
そして今、バイトからでもいいと一念発起し再び面接を受ける日々だが……。
男「バイトですら、どこも俺を雇ってくれない」
男「どいつもこいつも、口を開けばどうして新卒時に就職できなかったのか、とか」
男「2年間も引きこもって親に申し訳ないと思っていないのか、とか」
男「面接と関係ないことばっか訊いてきやがって」
『君みたいな若いだけの軟弱な無能は、いらないんだよね』
『いらないんだよね』
そしてその場で「お断り」された。
男「俺は無能で、クズで、ゴミだ」
男「これ以上生きていたって、親に迷惑をかけるだけだ」
男「もう、楽になっちまおう」
地平の彼方に見える遠くの町並みは、きらきらと光ってまぶしい。
あーあ。クソ、綺麗だな。
今際に見る最期の景色としては、悪くない。
そんなしょうもないことを思った。
この根図橋の上から見える世界はこんなにも綺麗だってのに、
どうして「俺の世界」はこんなにもクソだったのか。
次生まれる時は、もう少しまともな人間になれますように。